令和初の国賓としてトランプ米大統領が来日した5月25日、この日も〝彼の国〟の船は、尖閣諸島周辺の領海外側の接続水域を航行していました。彼の国とは中華人民共和国、その船は同国海警局の4隻です。第11管区海上保安本部(那覇市)の巡視船が確認したもので、接続水域より内側で中国公船が確認されたのは4月12日から44日連続となり、記録がある平成24(2012)年9月(日本政府の尖閣諸島国有化)以降では最長となりました。

この間の領海侵入は計4回で、その都度巡視船が退去させましたが、尖閣諸島の領有を主張する中国側の執拗さはいささかも衰えていません。トランプ大統領離日後の30日には久場島南東の領海に侵入(平成31年の初めからは16回目)して約1時間45分間航行しました。

安倍晋三首相とトランプ大統領は、5月28日、海上自衛隊横須賀基地を訪れ、停泊中のいずも型護衛艦「かが」を視察しました。日本側が提案したもので、米大統領が海自艦艇に乗艦するのは初めてです。両首脳は海自と米海軍の隊員約500人を前に訓示し、日米同盟の結束を国内外に強く印象づけたのですが、30日に中国海警局の船が領海侵犯したことはそれへの反発であると同時に、日本国民への心理的揺さぶりを今後も続けるということです。

尖閣諸島をめぐる中国の軍事的な示威に、日本人は不感症もしくは健忘症に罹っていると言えます。「かが」を視察したトランプ大統領は、日本が米国から最新鋭のステルス戦闘機F35を105機購入することや、「かが」の空母化改修に触れましたが、それが軍事的に即対中抑止力の切り札となるわけではありません。「かが」にF35Bを搭載しても、実際に空母として運用するために必要な前提がほとんど整っていないからです。この問題については稿を改めます。

中国は心理的な揺さぶりを続けていると述べましたが、それはこういうことです。平成24年当時を思い出してください。マスメディアの多くが「尖閣の国有化以後悪化した日中関係」という報じ方をしました。政府に先立って東京都が魚釣島の地権者からの購入を打ち出したとき、「石原(慎太郎)さんが尖閣購入を言い出さなければ、中国との間に問題は起きなかった」と語ったのは民主党の前原誠司氏でしたが、こうした視点、物言い自体が、すでに中国にとって都合のいい思考の枠組みに囚われている証しです。

当時、『人民日報』は、尖閣諸島は中国にとって核心的国益であり、それを守るために果敢な行動に出る。そのために必要な機材も準備すると訴えていました。日本の新聞ではとくに『人民日報』に注釈をつけませんが、同紙は中国共産党中央委員会の機関紙で、共産党の方針の徹底を目的として発行されているものです。

石原さんは「現実問題としてこちらの懐に手を突っ込まれている状態で何もしないということはあり得ない。個人の日常にたとえてもその手を振り払うのが当たり前じゃないか」と述べ、尖閣の実効支配を示すのに政府が何もしないのなら、東京都がそれを示すと言って、その手段として地権者からの購入を打ち出し、そのための募金を呼びかけたのです。石原さんはこの件を米国に注視させるため、わざわざ訪米時にワシントンで会見を開いて発表しました。

海洋覇権を求めて進出してくる中国をいかに抑えるか。沖縄の防衛が要になるのは論を俟ちません。日米同盟が具体的に機能するという前提に立てば、日米共同の航空戦力は中国を格段に上回ります。現状、中国による東シナ海の制空権獲得は不可能で、制海権でも日本の優位は動きません。海上自衛隊は対潜水艦作戦や機雷掃海の実力で米軍に次いで世界第2位の実力です。イージス護衛艦の能力は最新鋭の中国艦艇と比べてもかなりの差があり、海空とも自衛隊単独でも充分に強力です。

ただし、日本が何もしなければこの優位は失われます。持ち時間はそれほどない。「プラス日米同盟」を当てにして国力増強に遅滞を重ねてはなりません。米国は2013年度の国防権限法に、尖閣諸島が日本の施政下にあり、日米安保条約の適用対象であることを確認する条項を追加しましたが、「尖閣諸島が日本の施政下」にあることが揺らぐようでは、日米同盟は絵に描いた餅になります。

中国は、日米が共同で対峙するなら、東シナ海の制空権、制海権の獲得は不可能なことを知っています。現状では尖閣諸島に軍事力を行使することはできないと考え、何とか日米同盟に楔を打ち込む心理戦、情報戦を続けているわけです。その策源地が沖縄です。

在沖米軍基地の存在という沖縄県民の負担を軽んじてはなりませんが、沖縄は自らを含めた日本防衛の要地であること、地政学的に軍事空白にはできないことなどをしっかり認識した上で、中国や北朝鮮の軍事的脅威への具体的な対応を本土と協同していく必要があります。

実は、F35の大規模導入や大型護衛艦の空母化などの前に、政治が決断すればすぐにでもやれることがあります。沖縄県宮古島市にある下地島空港を活用することがその一つです。

下地島空港は、沖縄本島から南西に約270キロで尖閣諸島まで約180キロの地点にあります。離島空港としては国内最大規模の幅60メートル、長さ3000メートルの滑走路が整備され、南西航空の那覇線が撤退した平成6年以降は定期便の就航がないため実質上民間パイロットの訓練専用空港として扱われてきました。滑走路両端にILS(計器着陸装置)が設置されている日本では数少ない空港で、尖閣防衛からもこれを活用しない手はありません。

那覇基地からだと尖閣諸島まで30分要するのが下地島からだと5分待機で発進しても半分の時間で急行でき、先に優位を占めることが必須の航空戦においてこの差は極めて大きいのです。下地島にF15の部隊が駐留するだけで南西方面への対応能力は飛躍的に向上すると、自身ファイターパイロットだった織田邦男元空将から伺ったことがあります。これは、政治が決断すればできる一例です。

――さて、令和の時代の始まりに日本はトランプ米大統領を国賓として迎え、安倍首相は「日米同盟は地域の繁栄と世界の平和の礎だ」と強調しました。

「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています。」

この言葉は、上皇陛下が天皇として平成最後の誕生日に当たって記者会見で述べられたものです。平成の世が「戦争のない時代」だったのは何故か。「ライズ・アップ・ジャパン」を御視聴の皆さんに多言は不要ですね。

上皇陛下は先の会見で、戦後の平和と繁栄は「多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず、戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切であると思ってきました」と語られましたが、「たゆみない努力」が何であったか。

主権国家であることを制限された戦後の日本が、国家の根幹に様々な矛盾を抱えながら、何とか「現実的な選択」を重ねてきた結果であることを、マスメディアが謳い上げる空疎な言葉の前に思い起こしたいものです。

上皇陛下は、戦後憲法体制下で「日本国民統合の象徴」としての天皇のお務めを懸命に果たしてくださいました。その御代が「戦争のない時代として終わ」ったことに感謝するとともに、令和が、国家としての日本の復権と平和の御代が両立する時代となることを祈って、少しでも現実を視、考える国民の一人でありたいと思います。

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・3月29日〈文議長不敬発言とドイツ終戦40周年演説の真実/医療の未来を妨げるメディア〉
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