令和4年も間もなく大晦日を迎えます。

お陰様で「ライズ・アップ・ジャパン」は5年目に入りました。

会員各位に深く感謝申し上げます。

メルマガは、安倍晋三元総理大臣の死を悼む一文以来、筆が滞ってしまいました。申し訳ありません。

今回、まったくの私事を綴ります。

安倍さんの救命活動に当たった救急隊員や消防隊員の4分の1が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)とみられる症状を訴えて産業医の面談を受けたとの報道がありました。私も、PTSDとは違うのでしょうが、2月の石原慎太郎先生の死に続く安倍さんの非業の死に言いようのない喪失感があり、以後、鬱なのか何なのか、厭世の気分にも囚われ、正直、毎月1回の「ライズ・アップ・ジャパン」の収録もやっという感じで過ごしてきました。

病による石原先生の死は、予期していたことでした。

安倍さんは違う…。

古巣である『正論』編集部が安倍さんの写真展を企画(11月19日~12月1日)し、招待状を送ってくれました。会場は東京タワーにあるイベントスペースで、メモ帳には行く予定を書き込みながら、結局、行けませんでした。安倍さんの健在だった頃、奮闘していた日々の姿を見るのがツライ…。死去から時間が経って、一層そんな気分になるとは自分でも意外でした。

夏前に、産経新聞在社時代にお世話になった論説委員が癌で亡くなったとの報を受け、夏の盛りに「京都お母さん」と呼んでいた服飾評論家で女優の市田ひろみさんが90歳で亡くなりました。安倍さんの死はこの間で、人生を振り返ってみて、縁をいただいた方がこんなに立て続けに鬼籍に入られた年はありません。

人生のある時間を共にし、思い同じくの感を抱いた人が去ることは、自らの一部が失われたような気になります。それはけっして戻ってこない。

そうした喪失感を、私は自分の言葉の中にも見い出しています。今の時代の言葉がわからない。通じない、という思いです。

昭和・平成の大作詞家、阿久悠に『書き下ろし歌謡曲』(岩波新書、平成9年)という本があって、

〈ミュージックはあるがソングはない。〉

〈ソングはないということは言葉がないということで、これはいささか、はやりすたれとだけ云っていられない気持ちになります。〉

と嘆いています。

同感した山本夏彦もまた、

〈私は昨今の流行歌の歌詞が全く分からないこと、作詞家がなん十年もそれに甘んじているのはぐるかと書いたことがある。さだまさし以後の歌い手は歌の文句は分からなくてもいいものとして出発している。今ほど歌の情けない時代はない。〉(『週刊新潮』「夏彦の写真コラム」)

〈阿久悠は詞の言葉が日本語になっていないことを遠慮がちに言っている。作詞家がサウンドのおまけに甘んじていることも遠慮がちに言っている。何の遠慮がいろう。〉(同)

と書きました。

その頃から二十数年経った今、アルファベットとカタカナの歌詞が、メロディではなくサウンドに乗って、日本語とは異なる言葉として飛び込んでくるのが大勢となりました。仕事柄、流行りのものにも無関心ではいけないと思い、聴いてみるのですが、ほぼほぼわからない。ただ感性が鈍いだけなのかも知れませんが。

ああ、こうやって〝過去の人〟になってゆくのだな。世の中は生きている者の天下で、死んだ者の言葉や価値観は置き去りにされてゆくのだな、と死の側に近くなった我が身を眺め、今の時代に合っていれば、昔を知らなくても人は困らない。「遠くの声を探す」ことに意味を見い出している私なぞはまったく不要なのだ…、とまあ、この数か月、自己嫌悪と自己陶酔の混じったような感覚に沈んでいたのです。

忸怩たるものがあります。

年齢を重ねれば普通のこととして死の側に近づくわけで、生きている限りは何事かを為さねばならない。

何度か「ライズ・アップ・ジャパン」でも取り上げた『鬼滅の刃』にこんな場面のあることを思い出しました。

上弦の鬼猗窩座(あかざ)との激闘に斃れた煉獄杏寿郎の「あとを託す」との思いを受け止めながらも、弱気な言葉をもらす竈門炭治郎に仲間の嘴平伊之助がこう叱咤します。

〈弱気なことを言ってんじゃねぇ!!

信じると言われたらなら、それに応えること以外考えんじゃねぇ!!

死んだ生き物は土に還るだけなんだよ。べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ。悔しくても泣くんじゃねぇ。

どんなに惨めでも、恥ずかしくても、生きてかなきゃならなえんだぞ。〉

そして、〈こっち来い、修業だ!!〉と。

吾峠呼世晴さんという、私よりずっと年若い作家に励まされ、アルファベットとカタカナだけではない若い人たちの存在に改めて気づかされる。言葉は、思いは、きっと紡いでゆける。そのために自分は生きている。ちっぽけな存在の、ちっぽけな営みではあっても、心に留めてくれる方々がいる限りはしっかり努めてゆく。

諸々皆様の御寛恕を乞い、新しい年に向かって「心を燃やして」まいります。

どうか良いお年越しの時間を過ごされますように―。

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*平成27年(2015)にPHP研究所から発行された『優位戦思考に学ぶ―大東亜戦争「失敗の本質」』に加筆、再刊しました。