平成から令和へと御代替わりしました。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。配信が遅くなってしまい申し訳ありません。
新元号が好評を以て国民に迎えられ、新帝陛下の御治世をともに生きるという実感、祝福の観があるのは慶ばしい限りです。

ところで、我が国の御代替わりとほぼ時を同じくして、イギリスではヘンリー王子とメーガン妃との間に第一子となる男の子が誕生しました。発表されたフルネームは「アーチー・ハリソン・マウントバッテン=ウィンザー」です。王位継承順位はチャールズ皇太子、ウィリアム王子、同王子の3人の子供たち、ヘンリー王子に次ぐ第7位となります(エリザベス女王にとっては8番目の曾孫)。

英王室史上初めてインスタグラム(公式アカウント「@sussexroyal)への投稿で発表され、AFP(Agence France-Presse)は、〈英王室の伝統に縛られないロイヤルカップルであるヘンリー王子とメーガン妃夫妻は6日、第1子誕生の発表にあたっても再び慣習を破った〉と伝えました。

関連して、出産前ですが「英ヘンリー王子夫妻の赤ちゃん、米で納税義務? 二重国籍取得で」という報道もありました(4月15日、AFP=時事)。
〈母親のメーガン妃が米国人のため、生まれた赤ちゃんは英米の二重国籍を取得することになり、赤ちゃんの誕生を米国の税務当局が手ぐすね引いて待ち構えている〉というのです。
https://www.jiji.com/jc/article?k=20190415038499a&g=afp

メーガン妃は米国籍を有したまま英王室の一員になっているわけです。イギリス国民はこれをどのように受け止めているのか。日本人としてはいささか不思議な感があります。

我が皇室のあり方に関して議論されるとき、しばしば西欧の王室と比較して「○○を参考にすべき」とか「○○を採り入れるべき」とか意見を述べる識者が少なくありませんが、そもそも彼の地の王室と我が皇室は歴史的な与件が違います。国の成り立ちが違うのですから、このような議論はグローバリスムや多様性といった今日的価値観を唯是とするものでしかないでしょう。形を変えた「崇洋媚外」とも言えます。

ヘンリー王子とメーガン妃夫妻を「英王室の伝統に縛られない〝地球市民〟」と表したテレビコメンテーターがいましたが、わが皇室は日本の歴史伝統を体現する存在です。日本の皇室は神話時代を淵源として神武天皇から今日まで「一つの王朝」として絶えることなく続いてきました。

たとえば英王室は長い伝統を持つように見えますが、1066年のノルマン・コンクエスト(ノルマン人ウィリアム征服王によるイングランド征服)から、おおよそ次のように王朝を数えることができます。
ノルマン朝→プランタジネット朝→ランカスタ―朝→ヨ―ク朝→ランカスタ―朝→ヨーク朝→テューダ―朝→スチュアート朝→ハノーヴァー朝→サックス=コーバーグ=ゴーサ朝→ウィンザー朝

一つ一つ詳述する紙幅はありませんが、現在の王室の祖となるハノーヴァー朝はドイツを発祥とする家系です。1688~89年の名誉革命を受けて 1701年に制定された王位継承法は、イギリスの王位継承者を新教徒に限定しました。同法はスチュアート朝のアンを王位継承者とし、アンに世継ぎがない場合は、本来なら継承権を得るカトリックの候補者を外し、ハノーヴァー選帝侯妃ゾフィーとその子孫に継承権を与えるものでした。そのゾフィーがアンよりも早く死んだため、息子(ゲオルク)がジョージ1世として王位を継承しました。

ジョージ1世とジョージ2世はイギリス国民からは外国人と見なされましたが、ジョージ3世になって、彼がイギリスで生まれたため王として受け入れられるようになり、その後ハノーヴァー家は、最後の君主となったヴィクトリア女王の死去に伴い王家を継いだエドワード7世がサックス=コーバーグ=ゴーサ家に改称、1917年にジョージ5世がさらにウィンザー家と名を改めました。

細かくいうと、サックス=コーバーグ=ゴーサの王朝名は、ヴィクトリア女王の夫(王配)でドイツ生まれのアルバートの家名です。エドワード7世はその長男。第一次世界大戦でイギリスはドイツと戦っていますから、反ドイツの国民感情の高まりを受けたジョージ5世(エドワード7世の次男)は ドイツ系の名から、1917年7月17日付の勅令で、ヴィクトリア女王の男系子孫で、かつイギリス国民である者は、居城の名にちなんでウィンザー姓を名乗ると宣言したのです。

付け加えると、エリザベス2世の子の姓は、父親であるエジンバラ公の姓マウントバッテン(Mountbatten)になるわけですが、エリザベス2世は 1952年の即位後,自身の子および子孫をウィンザー姓とする旨を枢密院で宣言しました。それがさらに 1960年、王子・王女の身分および殿下の敬称を持たない子孫の姓はマウントバッテン=ウィンザーとすることに改められました。「アーチー・ハリソン」のフルネームの由来です。

また、エリザベス2世の夫君(王配)エジンバラ公はギリシア王室の出身(ギリシアは1973年に国民投票によって王制を廃止)で、家系としてはデンマーク、ノルウェーの王家であるグリュックスブルク家に繋がり、ヴィクトリア女王の玄孫でもあります。

とにかく欧州の王室(貴族)の血縁関係は複雑です。先に挙げたジョージ5世は、ロシア皇帝ニコライ2世と従兄弟です。デンマーク王国のクリスチャン9世の二人の王女、アレクサンドラがイギリスのエドワード7世に、マリアがロシアのアレクサンドル3世に嫁ぎ、それぞれ誕生したのがジョージ5世、ニコライ2世です。

ジョージ5世はニコライ2世を「ニッキー」と呼ぶほど親しく、二人とも母親(姉妹)の遺伝子を色濃く受け継いだので、風貌もよく似ていました(写真で確認できます)。さらにジョージ5世はドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも従兄弟でした。伯母であるヴィクトリアがドイツのフリードリッヒ3世に嫁ぎ、誕生したのがウィルヘルム2世です。ジョージ5世はウィルヘルム2世を「ウィリー」と呼んで、もともと仲は悪くありませんでした。

第一次大戦中に活躍したドイツ空軍のエース、マンフレット・フォン・リヒトホーフェンを描いた『レッドバロン』(2008年、ニコライ・ミュラーション監督)という映画があります。主人公のリヒトフォーヘンと協商側のカナダ航空隊のブラウン大尉が、お互い傷つき着陸して会話する場面がとても印象的です。

リヒトフォーヘンがブラウン大尉に「いつから戦争に?」と訊くと、「イギリスの参戦から。カナダは大英帝国領さ」と答え、そこからこんな会話が続くのです。
リヒトフォーヘンが「一族の間の争いのような戦争だ」とつぶやくと、
「貴族の〝一族同士〟のな。ロシアやイギリス、フランスやドイツは国境と関係なく血縁関係ができあがっている」
「でも国境のことで争う」
「争う理由はこじつけだ」と。
リヒトフォーヘンも貴族(男爵)でしたが、第一次大戦を一族の戦争と呼んだのはこれまで点描した関係ゆえにです。

欧州には現在も、イギリスのほかデンマーク、スウェーデン、リヒテンシュタイン、ノルウェー、ルクセンブルク、オランダ、ベルギー、スペインなどの君主制の国が健在です。しかしどの国の有り様も、繰り返しますが、日本と所与が違います。これは優劣の問題ではありません。

個人にそれぞれ特有の体質があるように、国にも固有の体質があります。他と異なることに「後進性」を感じる必要はないのです。「伝統に縛られない」という言い方は、伝統を悪しきもの、好ましくないものと捉えています。ある種の進歩主義に突き動かされて、営々と培ってきた自らの国柄を後ろ向きに捉えるのはなんとも勿体ないことです。イギリス王室がどこへ向かおうと、我が国がそれに倣わねばならぬ理由はどこにもありません。

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