国内で新たに1万8674人の新型コロナウイルス感染者が確認されました(1月13日時点)。1万人を超えるのは2日連続で、12日の1万3244人を超えて今年最多、1万5千人を上回ったのは昨年9月4日以来です。感染力が強いとされる新変異株「オミクロン株」の影響で、我が国は「第6波」の流行に入ったと云えます。

しかし、オミクロン株は感染力が強いものの毒性は低く、感染者数の増加に比べて重症者、死者の数に深刻な増加は見られません。感染者の急増が続く欧州でも同様です。

私たちは感染を抑えるために行動制限を守り、〝非日常〟の生活に耐えて2年余りを過ごしてきました。後手に回った政府の対策にも拘らず社会秩序は維持され、日本人は自らを律せられる国民であることを示しました。アフターコロナの日常を取り戻しつつある過程で変異したオミクロン株が現れ、たしかにその感染力の強さは侮れませんが、動揺する必要はないと考えます。

東京大学名誉教授で「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏が『週刊新潮』の〈「感染増でも今年『コロナ』は終息する!? 『医師』『専門家』が予測 『英国』『南ア』データで読み解く『オミクロン』の戦略」〉(2022年1月13日号)という特集でこう述べています。

〈南アではあっという間にピークアウトし、死者の増加がなかったと南ア政府が発表し、それを研究者たちも認めています。オミクロン株の実態はインフルエンザに近いといえるでしょう。北海道大学と東京大学の実験でも、細胞毒性が非常に弱いことが明らかになっています。ヨーロッパも、南アと同じコースをたどることが容易に予想されます。〉

同特集の結びは、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師による以下の見立てです。

〈7、8月までには、新型コロナは外来で対処できる風邪になっていると、私は予想しています。そのころまでには、国民のほとんどが3回目のワクチン接種を終えて、抗体が十分にでき、コロナは流行しても、ただの風邪でしかなくなっていると思います。ただし、指定感染症であることが、コロナを外来で診られる病気にするうえでネックになっている。3回目のワクチン接種と並行して、指定感染症を外す議論を進めていくべきです。今年はコロナ禍に区切りをつける年にしなければなりません。〉

この特集は新潮社のウェブサイトで全文読むことができます。オミクロン株の感染急拡大に関するいろいろな記事に目を通しましたが、政府の分科会や地上波のテレビ報道に対比して知っておくべきことが端的にまとめられています。

【オミクロン株は“コロナ終息のサイン”か 弱毒化の兆候も】

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/01140556/?all=1&page=1

政治がその舵取りを誤らない限り、私たちの社会的な基盤は新型コロナウイルスに十分立ち向かえる―。

そのための状況の好転、〝武器〟も揃ってきています。ワクチン接種は当初進捗の遅さが批判されましたが、現在ではOECDでトップクラスの接種率となり、かなりの日本人が新型コロナウイルスに対する基礎的免疫を獲得していると考えられるほか、「中和抗体薬(抗体カクテル療法)」の拡充、軽症患者に使える飲み薬も医療機関や調剤薬局に送付され始めています。

医療体制の逼迫という問題も、振り返れば施設の不足ではなく既存施設を有効に使うための予算措置とその執行、医師会への協力要請などが大胆かつ積極的に行われなかったことから生じたもので、「非常事態」を宣言しながら、それに立ち向かう政治の覚悟の無さ、ダイナミズムの不足に問題があったわけです。

年明け4日、岸田文雄首相は三重県伊勢市の伊勢神宮に参拝した折、記者会見で新型コロナ対策の「抜本的改革」に繋がる大きな変更を発表しました。

これまでのコロナ対策は基本的に、自治体の判断で「陽性者は全員入院、濃厚接触者は全員宿泊待機」としていました。岸田首相はこれを見直すと発言したのです。そもそも医療体制の逼迫や行動制限も、新型コロナウイルスを感染症の危険度に応じた分類で実態以上の脅威に位置づけたことから生じたものです。

もちろん、当初は正体がわからないのですから致し方なかったとしても、これを引き下げる機会はこれまで何度かありました。

感染症は1類から5類までに分けられ、それぞれの対応策を定めています。数字が小さいほど危険度は高く、たとえば1類にはエボラ出血熱やペストなどが、2類は結核やSARS(重症急性呼吸器症候群)などが該当します。3類はコレラや腸チフスなど、4類は黄熱やマラリアなど、そして5類はインフルエンザなどです。

類ごとの措置は、たとえば「死体の移動制限」が課せられるのは1〜3類。「入院の勧告・措置」は1〜2類。新型コロナは「2類相当」に分類されているので、結果として感染者は医療機関に入院しなければならず、行動制限などの要請もこれに基づきます。

岸田首相はそれを自宅療養も認める方針を打ち出したわけで、実質的に2類相当から引き下げようとするものです。その後、厚労省が医療従事者や介護に関わる仕事に就く人たちが濃厚接触者になった場合の待機の期間短縮などを打ち出しましたが、基本的には、現在置き換わりが進んでいるオミクロン株の脅威を科学的に判定し、感染症分類の位置づけを5類に引き下げることを政治が決断すべき時期に来ていると思います。

その決断、ダイナミズムを岸田首相は発揮できるか―。

話柄を少し転じますが、「ライズ・アップ・ジャパン」1月号では、「派閥の研究」に少しく取り組みました。私は政治というものは、理念と欲得が混然となって行われるものだと考えています。そして派閥は、政治家個々が持つ理念と欲得の集合体です。

令和4年以降の自民党内の政局は、基本的に五つの派閥による合縦連衡によって動いていくと見ています。安倍晋三元首相と競った石破茂元幹事長は自派閥を解消したことで主役級の座から去り、今後は総選挙後から齟齬が生じ始めている安倍氏(清和会、94人)と岸田首相(宏池会、43人)を軸に、麻生太郎副総裁(志公会、53人)、茂木敏充幹事長(平成研究会、53人)、二階俊博元幹事長(志帥会、44人)、それに菅義偉前首相のように議員グループを形成する有力者がそれぞれの理念と欲得を以て駆け引きを展開する構図となるでしょう。これに無派閥(77人)の高市早苗自民党政調会長のような〝一人一党〟のような存在が、如何に派閥の力ではなく「国民の後押し」を得て表舞台に出てくるか。

政治は闘争の世界でもあります。その闘争、衝突のエネルギーが政策を磨いてゆくという面がある。明治以後の日本の政治は派閥史として捉えることができますが、派閥は時代の要請に応じて様々に内部変化し、それに基づく離合集散を繰り返してきました。藩閥(薩長閥)の頃からですが、近年、そう記憶に遠くないところでの話を一つ記しておきます。

佐藤栄作政権の後継を競ったのは、〝三角大福中〟と云われた三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の5人でした。この中で主役的立場にあったのが田中と福田で、二人の戦いを当時のメディアは「角福戦争」と表しました。

福田は東大卒のエリート官僚(大蔵省主計局長)、田中は高等小学校出の叩き上げ。育ちも性格も異なる二人は、政策面でも対照的でした。田中は、積極的に先行投資をし、経済を回して景気を上昇させれば、歳入が増加して財政も豊かになると考え、拡大論を基軸にしました。『日本列島改造論』はその現れでした。

一方の福田は、政治とは倹約に徹すること。「役所に出向くと常に総務課長に昼間から電気をつけるなと注意してきた。国費は国民の血税なのだから絶対無駄使いをしてはならない」と語っていました。緊縮財政論者であったと云えます。

この角福戦争の流れから見ると、田中派が今日の茂木派であり、福田派が安倍派ということになります。田中角栄のあと三木武夫、福田赳夫の順に首相になり、その後が大平正芳ですが、福田との戦いのために大平を支援したのが田中で、激烈な闘争は今日では想像できない凄まじさでした。

岸田首相は昨秋の自民党総裁選で「所得倍増計画」について語りましたが、もとは宏池会の創設者池田勇人の政策で、日米安保改定問題で退陣した岸信介の後継となった池田が国政転換を図って打ち出したものです。安倍長期政権のあと菅政権を挟んで首相となった岸田氏には、岸―池田の時代のことが念頭に浮かんだのでしょう。

派閥の流れを頭に入れた上で、現在の政治家個々を見てゆくのは、その理念と欲得を読み解く一つのカギになります。福澤諭吉の云う「立国は私なり、公に非ざるなり」が国の活力の源であるとすれば、派閥もまたそれを担う面のあることは歴史が証しています。

――話が拡散してしまいました。人間社会において、すべてが理想的になることは求めるべくもない。派閥が現実政治の基盤の一つであるという否定できない現実がある限り、それを如何に「立国」のために活かすか、その方途を探求していくことが必要だと私は考えます。

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