初春のお慶びを申し上げます。

新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が拡大していますが、政府がこれまでの経験を活かして、適切な対応をしてくれることを強く望みます。またもや自粛と行動制限一本槍を国民に求めるのなら、岸田政権は何も学習能力がない、ということになります。

目を外に転じれば、コロナ禍以外に欧州ではウクライナ危機、東アジアでは中国の台湾への圧力増大が続いています。さらに北朝鮮が極超音速ミサイルの発射実験を行ったと公表しました。昨年9月以来で、極超音速ミサイルは、弾道ミサイル本体から分離した滑空弾頭部が音速の5倍以上の速度で低空飛行し、迎撃が困難とされます。どの程度の技術水準に達しているかは不明ですが、朝鮮中央通信は「700キロ先の標的に誤差なく命中した」と報じました。そのとおりなら、我が国への脅威はさらに高まることになります。

我が国には「有事」における根本的な備えがありません。それは、一義的に自衛隊の装備の問題云々ではなく、国民意識の問題です。戦後76年、他国と銃砲弾が飛び交う干戈(かんか)を交えたことなく、経済戦争の意識すらも薄い中で過ごした時間がもたらした能天気さで、現実に〝今そこにある危機〟を見えなくさせています。

本年は、いわゆる日中国交正常化50周年に当たります。永田町、霞が関、経済界、マスメディアそこかしこで中華人民共和国との「友好促進」「関係修復」の声が高くなるでしょう。しかし、習近平国家主席が標榜する「中華民族の夢」「台湾統一」が何を意味するか、けっして甘く見てはならない。一国二制度下にあった香港を圧殺した事実が示すように、「台湾有事」が間近に迫っている可能性をしかと認識する必要があります。

世界の現状は、民主主義的な国家と強権的な国家とが対峙する時代に入っています。政治手法と根本的な価値観の衝突であり、その様相はかつての米ソ冷戦時代よりも複雑です。

私たちが自らに問うべきは、日本の国家意志は何かということです。長い歴史に培ってきた共同体の価値を大切にしつつ、自由と民主主義を守護する国として立つのか、中国やロシアのような国に迎合してゆくのか。難儀なのは、ただアメリカに寄り添っていればよいということではなく、日本の国家としての真の独立を志向する、それをけっして失念してはならないということです。

具体的には、我が国の主権を制限している現行憲法の正体を見極め、改める必要性に国民が覚醒すること。それが政治家の使命であると有権者が示すことです。

配信中のライズ・アップ・ジャパン12月号の結びで、私は、日本人ももう少し腹黒くなる必要がある旨の発言をしました。

その真意は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、それを改めるのに躊躇しないということです。

日本人がお人好しだとして、私は根本的にそれを美質と考える者です。「騙すより騙される人間のほうがいい」と親に云われて育ちました。ただし、それは島国日本の中にあって成り立つ共同体の共通意識です。共同作業を必要とする農耕民族として、一つの家族のような国家を営んでこられた我が国であればこその意識で、世界においては極めて特殊、異質と云わねばなりません。

少し前の台湾(李登輝さんや蔡焜燦さんらが存命だった頃)では、「あなたは日本精神の持ち主だ」と云われることは大変な褒め言葉だったそうです。日本精神とは、勤勉で正直、約束を守るという価値観を表現する言葉で、蔡焜燦さんによれば、かつて半世紀もの間、日本と歴史を共有した台湾が、日本の先人たちがその叡知を振り絞って台湾を近代化させ、徳と愛情をもって民衆の教育に努めた成果の名残として受け止められているから今も使われているとのことでした。誰に強制されたわけでもない、いわんや日本統治時代の官製語でもない、と。

勤勉で正直、約束を守る…日本人はこうありたいものです。けれども、世界には「腹黒い人々」がいて、彼らは騙されるほうが悪いのだ、愚かなのだ、と考える。

我が内なる美質を守りながら、外界の「腹黒い人々」に如何に対峙してゆくか。私はすべての日本人に腹黒いセンスを持てなどとは云いません。むしろ逆で、多くの日本人は「お人好し」であってほしい。腹黒いセンスを必要とするのは、国家運営において対外的な問題に当たる「選良」です。彼らには普通の日本人を守るためにそうした異能を持ってほしい。

本稿の結びに、日下公人先生の本を構成する際に伺った〝日下節〟の一部を御紹介します。

〈戦後の日本が克服しなければならない課題は、「日本が強く主張することは他国の反発を買って摩擦が増える。経済的に得をしないから、相手の要求を聞いたほうがよい」という事なかれ主義と、他者への迎合を友好と思い込む〝敗戦国症候群〟です。

日本が自ら変わろうとすることに対し、「日本はふたたび軍国主義へと向かうのか」などと質問してくる外国の記者がいます(笑)。

そんなとき、私はこう答えるようにしている。

「それはあなたたち次第だ。日本は、相手が紳士的に振る舞う国であれば紳士的に付き合う。もし野蛮な、理不尽なことを押し付けてくるようならば、こちらもそれに応じて変化する。日本の軍国主義の復活を心配するというのは、あなたがたの中に日本に対し理不尽なことをしているという自覚があるからではないのか」

あなたがたの世界はみんな腹黒い。日本人は、お人よしで腹黒くはないけれど、それでもあまりに侮ると痛い目を見るよと(笑)。〉

――かくあれ令和の日本人!

どうぞ本年も宜しくお願い申し上げます。

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