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安倍晋三総理が持病の悪化による辞任を表明し、その後あっという間に後任の自民党総裁に菅義偉官房長官が選ばれる流れとなりました。政局については改めて書きます。

松任谷由美さんがニッポン放送のラジオ番組で、安倍総理の辞任記者会見を見て切なくなった、と語ったそうです。

それに対し、こうフェイスブックに投稿した政治学者がいます。

「荒井由実のまま夭折(ようせつ)すべきだったね。本当に、醜態をさらすより、早く死んだほうがいいと思います」

京都精華大学の専任講師白井聡氏です。氏は朝日新聞の言論サイト「論座」で「安倍政権の7年余りとは、日本史上の汚点である」(8月30日)と書き、「安倍政権を総括する」というこの連載はしばらく続くようです。

白井氏は、安倍政権を多くの日本人が支持してきたことは「耐え難い苦痛」で、支持者に「嫌悪感」を持つと述べます。さらに、氏の隣人たちが安倍政権を支持している事実は「己の知性と倫理の基準からして絶対に許容できない」とも。

いやはや言葉を失ってしまいますが、あなたの「知性と倫理の基準」を勝手に押し付けてくれるな、とだけ言っておきましょう。

私は、安倍政権を基本的に支持してきましたが、同時に安倍政権の批判は大いにやったらよいとも発言してきました。

ただし、それは我が国の名誉と利益、垂直的な存在としての国民――今生きている我々だけではない御先祖、未来の同胞を含めた――意識のもとになされる「あるべき批判」で、事の本質や軽重をわきまえなければならない。

マスメディアの多くが「民意」なるものを盾に執拗に重ねた安倍批判には、それが大きく欠けていました。

憲法改正を自らの内閣の具体的な目標に掲げた戦後初の総理が安倍氏でした。「戦後体制」の守護者を任じる朝日新聞が敵意と憎悪を剥き出しにするのは当然といえ、それが激越すぎて、知性も倫理感も感じられない批判ばかりだったように思います。

「戦後レジームからの脱却」を正面に掲げた第一次政権に、私を含め保守派の期待は大いに高まりました。乾坤一擲の内閣ができたと思いました。けれども、戦後レジームの壁はあまりに強固でした。壁の前に苦吟して、安倍氏は「匍匐(ほふく)前進」しかできないことを覚ったのに違いなく、自民党の中にも真の味方はごく僅かしかいないことを思い知らされたでしょう。

「戦後レジームからの脱却」は果たし得ない目的なのか…。

第二次政権以降も、実は、戦後日本が挑むべき根本課題に対して「安倍一強」などという内実はなかったと私は見ています。それは安倍氏自身が最も感じていたはずです。何より過半数以上の国民が「根本課題」に無関心か、勘違いを続けてきたのが戦後という時間で、安倍氏はその「民意」の中で政策の幅を決め、連携可能な相手を探すしかありませんでした。

たとえば安倍氏の憲法改正案が主権制限条項と認識すべき9条2項の削除ではなく、「自衛隊の明記」という中途半端なものだったのは、連立相手の公明党と経済界(経団連など)などの支持を繋ぎ止めるギリギリの線だったからです。それを蟻の一穴として改憲の前例をつくり、志を同じくする後継者に本格的な改憲を託す――それが本意だったでしょう。

期待の高さゆえに保守派は常に安倍氏に「こんなものか」という落胆を感じ続けましたが、戦後の日本で「保守」の態度を続けることは、常に少数の側にいることを自覚しなければなりません。

第二次安倍政権が発足したとき、私は、〈安倍晋三、「救国」宰相の試練〉と題する『別冊正論』を世に出しました。「戦後レジームからの脱却」が日本の根本課題として浮上すると、これに反対する勢力が内外で大きな声を上げます。〝閉された言語空間〟の中で、「平和」や「人権」などといった記号化された言葉を以て日本を独立国たらしめないとする力がはたらく。

安倍政権の歴史的意味は、それを乗り越えてゆくことにありました。第二次以後7年8カ月にわたる長期政権となりましたが、それすら長い道のりへの序曲でしかなかった。「未完の日本」は続くのです。

第一次政権発足のとき、故佐々淳行氏がこう嘆息したといいます。

「弁慶がいない。困ったなあ。」

再び辞任する安倍氏の会見を見ていて、私はその話を思い出しました。「戦後体制」という平氏を打ち倒す使命をもって登場した安倍義経には、源義経に付き随った武蔵坊弁慶のような存在がいない。当時の自民党という陣屋を見ると、弁慶がいなくて、朝日新聞をはじめマスメディアに袋叩きにされる安倍氏をみなで見殺しにした。国民もただ見物していただけだった…。

さて、今回の安倍氏退場を国民はどう受け止めたか。

芝居の世界には一幕物がありますが、人間の一生も、国家の歩みも、一幕限りではありません。第二幕、第三幕があります。安倍氏は民主党政権を倒して復活しました。そして、多くの成果と無念を残して、再び舞台から去ってゆく――。今後しばらくは治療に努め、是非体調を回復させていただきたいと思います。

朝日新聞社が9月2、3日に実施した電話による世論調査によれば、〈第2次安倍政権の7年8カ月の実績評価〉について、〈「大いに」17%、「ある程度」54%を合わせて、71%が「評価する」と答え〉ています。

朝日は社説では、〈長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあった〉と断じ、総理の辞職を機に、〈深く傷つけられた日本の民主主義を立て直す一歩としなければならない〉と訴えました。

〈民主主義の土台を崩す前代未聞の事態を招いたことを忘れるわけにはいかない〉とも述べるのですが、どう考えても大袈裟、あるいは被害妄想で、安倍総理が選挙という民主的プロセスを経て国の舵取りを行ったことは否定できないでしょう。

自社が行なった世論調査の結果と社説との乖離。平成24年12月に政権復帰した後、国政選挙のたびに安倍総理率いる自民党は勝利してきました。よもや選挙結果は「民意」ではないと朝日は言うか。いやいや、朝日の本心は自社の社論に合致するものが「民意」で、反するものは「ポピリュズムの弊害」ということなのでしょう。そうした二重基準が朝日に限らずマスメディア全体への読者、視聴者の不信を呼んでいる。

惜しむらくは安倍自民党の勝利は公明との連立を前提にしたもので、それゆえ我が国の根本課題に挑む政権としては機能不全だったことです。実は、自公の枠組から脱して本格的な保守政権を打ち立てる好機が平成24年12月の総選挙だったのですが、そのへんの裏話は次回以降に――。

とにかく、今の私は、日本人の一人として、松任谷由実さんと同じ思いを抱いています。それを醜態と言われても一向に構わない。

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