やや旧聞になりますが、11月20日、「虎ノ門ニュース」(DHCテレビ)に出演しました。メインキャスターは百田尚樹さんです。話柄が百田さんの新刊『日本国紀』(幻冬舎)に及んだとき、百田さんは執筆の動機として「かつて上島さんに聞いた話」として「ある県の学校で行われた酷い授業」に衝撃を受けたと語りました。

「酷い授業」とは何か――。私と百田さんの付き合いは『永遠の0』が刊行されて間がない頃からで、『正論』(産経新聞社発行)にも度々御登場いただきました。あるインタビューの折、私が「こんな授業を受けたら日本の子供たちは誰でも日本が嫌いになってしまう。御先祖を憎悪するようになってしまう」と、その授業の概要を話したことがあります。それが百田さんに強い印象を残し、「日本が好きになるような本」を書かねばならないと思ったというのです。

番組の中では「ある県の学校」としましたが、実際は三重県四日市市の某公立中学校です。平成10年に行われた道徳の授業(中学1年生対象)について私は百田さんに話しました。

当時、私は『正論』の編集者として皇學館大学(三重県伊勢市)の志ある助教授らと一緒に、三重県教職員組合(三教組)の違法な勤務実態や看過し難い偏向教育の実態を追及する企画に取り組んでいました。その過程で知ったのが以下の事実です。

件の授業は「在日韓国朝鮮人問題」を主なテーマに「朝鮮と日本の歴史」以下三つの段階を踏んで進められました。最初の「朝鮮と日本の歴史」という段階の指導案にはこう書かれていました。

「古代より日本にとって大恩のある朝鮮に対し、近代からの日本の朝鮮に対する非道な政策と、それによって苦しめられてきた人々の歴史を学習する」とあり、この箇所の「教材について」には、韓国併合、武力支配、創氏改名や強制連行などといった項目に重点を置くとしたうえで、「これらの史実は、朝鮮を植民地化し、朝鮮人の人権、生命を著しく侵害したものであり、日本人に内在する残虐性をさらけ出すものである」というのです。

さらにこの授業の指導案のまとめである「指導上の留意点」には、「日本の行為の無謀さ、不条理さへの驚き、怒りを引き出し次時につなげたい」とあり、もっと驚かされたのが、「教師側の意図」に記された次の一文です。

「細かい歴史事実の相関関係よりも、日本が自国の利益のためにアジア、とりわけ朝鮮の人々に甚大な犠牲を強いたその身勝手さ、酷さが伝わればよい」

いやはや、「細かい歴史事実の相関関係」よりも、日本人の「身勝手さ、酷さが伝わればよい」とは、いったいどこの国で行われている授業なのか。これは〝洗脳〟以外のなにものでもない。

結果として、授業を受けた子供たちはどのような思いを抱くに至ったか。「歴史学習後の反省」には、次のような生徒の感想が記されています。

「私は自分が日本人であることを恥ずかしく思った。同じ日本人として日本人に腹が立った。」

「勉強して、過去の恩を仇で返すようなひどいことをして、朝鮮の人たちを深く悲しませ、傷つけたんだと知って、日本人が朝鮮の人から嫌われても仕方がないと思った。」

「僕たちの先祖があんなことをしていたと考えると悲しくなる。創氏改名や強制連行、虐殺など、無茶苦茶をしていたと知ってとても驚いた。当時の日本人は最低だと思った。」

日本教職員組合(日教組)の組織率は長期低落傾向が続いていて、公立学校(義務教育)の教職員の加入率は23%(平成29年10月1日時点)です。三教祖の組織率は約8割(平成10年当時は9割を超えていました)で、福井県や山梨県と並んで組織率が高いのですが、三重県に限らず、子供たちにこうした「自虐の種」を植え付けるような授業は濃淡こそあれ、いまだに各地の教育現場で行われています。

当時一緒に戦った皇學館大学の松浦光修氏(現・文学部国史学科教授)は、こう語っています。

〈歴史という学問に対する敬意もなければ、子供たちへの真摯な愛情もありません。(略)学習指導要領の道徳の内容には、「日本人としての自覚をもって国を愛し」「父母、祖父母に敬愛の念を深め」といった文言がありますが、この授業には、逆に「日本人としての自覚を失わせ国を憎ませ」「父母、祖父母に憎悪の念を深めさせる」ことを企図したものとしか思えない。そして、恐ろしいことにそれに成功しているわけです。〉(『日本を虐げる人々』PHP研究所)

松浦氏のいう日教組の「成功」は、いまの若者たちを蝕んでいる元凶ではないかと私は思っています。父祖の歴史、自らの過去が忌まわしく恥ずべきことばかりで埋められていたとしたら、明日を信じて生きる気力が湧いてくるはずもない。平成の御代になって顕著になったかに思える若者たちに漂う無力感、倦怠感なども、幼少の頃から「日本は悪かった」とばかり教えられれば当たり前ではないか。公的責任感の希薄さを大人は批判できない。そんな教育を受けて、誰が日本人と日本という国の永続を願うか。自分がその一員なのだという自覚を持てるか。

百田さんの『日本国紀』の謝辞の結びはこう書かれています。

〈今、私が何よりも深い感謝を捧げたいと思うのは、我が祖国「日本」と、この国に生き、現代の私たちにまで生を繋いでくれた遠い父祖たちです。(略)

この島に生まれた人々が日本の風土に育まれ、苦労を乗り越え、永らえてきたからこそ、今の私たちがあるのです。

そして私もまた未来の日本と日本人へと生を繋げ、国を繋げる環の一つであること、その使命の重さを感じています。〉

今の日本に不可欠なことは何か。眼前の政治や経済の問題に取り組むのと同じように、先の大戦の敗北によって奪われた「私たちの歴史」を取り戻してゆくこと。それが日本再起の原動力です。

そして、「私たちの歴史」を取り戻すとは、独善に陥って自省を拒む姿勢のことではありません。かつて東京裁判で日本人被告全員無罪の判決を書いたインドのパール判事は「あやまられた彼ら(戦勝国)の宣伝の欺瞞を払拭せよ。あやまられた歴史は書き換えられねばならない」と戦後の日本人に強く訴えました。それに粛々と答えてゆくことなのです。

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