天皇、皇后両陛下は17日、伊勢神宮に天皇陛下の譲位を報告するため三重県伊勢市を訪問されました。譲位に伴う儀式の一つで、18日午前に外宮(げくう)、午後に皇祖神の天照大神(あまてらすおおみかみ)を祭る内宮(ないくう)で拝礼されました。天皇陛下の神宮御参拝は皇太子時代を含め14回目となります。

さて、4月17日という日で私が想起する一つは、渡部昇一先生の御命日であるということです。先生は平成29年のこの日、心不全のため86歳で亡くなられました。

〈昭和5年、山形県鶴岡市生まれ。上智大大学院修士課程修了後、独ミュンスター大、英オックスフォード大に留学。帰国後、上智大講師、助教授をへて教授に。専門は英語学で、「英文法史」「英語学史」などの専門書を著した。

 48年ごろから評論活動を本格的に展開し、博学と鋭い洞察でさまざまな分野に健筆をふるった。51年に「腐敗の時代」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。同年に刊行された「知的生活の方法」は、読書を中心とした知的生活を築き上げるための具体的方法を論じ、100万部超のベストセラーとなった。

57年の高校日本史教科書の検定で、当時の文部省が「侵略」を「進出」に書き換えさせたとする新聞・テレビ各社の報道を誤報だといちはやく指摘し、ロッキード事件裁判では田中角栄元首相を擁護するなど論壇で華々しく活躍。一連の言論活動で「正確な事実関係を発掘してわが国マスコミの持つ付和雷同性に挑戦し、報道機関を含む言論活動に一大変化をもたらす契機となった」として60年、第1回正論大賞を受賞。東京裁判の影響を色濃く受けた近現代史観の見直しを主張するなど、保守論壇の重鎮だった。(後略)〉

これは逝去翌日の産経新聞が報じた渡部先生の事績の略記です。私が『知的生活の方法』を読んだのは18歳のときでした。その頃は、後年新聞社で働くことなど夢想もしていませんでしたが、程なく『正論』や『諸君!』を知り、渡部先生の論稿が掲載されることから愛読するようなりました。

『正論』の編集者として渡部先生に初めてお目にかかったのは平成10年秋か11年の初めでした。先生は上智大学で教鞭を執っておられ、御多忙でもあったので、よく口述取材をさせていただきました。お話を伺い、それを原稿にまとめ、内容を御確認いただいた上で掲載するという段取りです。

私は、渡部先生に御登場いただく企画を立てお話を伺うのがとても楽しみでした。平易な語り口ながら内容はきわめて充実。大いに勉強になり、また嬉しいことに先生も私の原稿まとめを高く評価してくださいました。楽屋話めきますが、『正論』の競合誌である『WiLL』が発行した「追悼『知の巨人』渡部昇一」(平成29年7月増刊号)で、同誌の発行人鈴木隆一さんが創刊時の思い出として渡部先生に相談したことが語られています。

〈(渡部先生は)「総合雑誌ですか、この時期にそれは剛毅ですね」

とおっしゃって、編集長の話になり、元文春のH氏や雑誌『正論』のK氏のお名前を挙げた記憶があります。そしたら、

「K君、いいですね」

とおっしゃられた。

K氏には、もし『正論』編集長にならなかったら、うちの編集長になっていただけませんか、と話したことがあります。……〉

私が『正論』の編集長になったことで、この話は立ち消えになりましたが、鈴木さんの評価、渡部先生の「K君、いいですね」という言葉は、いまも忝く思っています。なんだ自慢をしたいのか、と興醒めされるかも知れませんが、「ライズ・アップ・ジャパン」や「大東亜戦争の研究」で私が渡部先生の話に再々触れるのは、斯様な次第があり、その一端を皆さんにも知っておいていただければと思ったのです。どうか御寛恕のほどを。

冒頭で、天皇皇后両陛下が伊勢神宮に参拝されたことに触れました。平成も残りわずかとなり、私は一国民として、御在位中の靖国神社への御親拝を願うものです。

ここで、私にとって制作に関わった思い出深い一冊『渡部昇一、靖國を語る』(PHP研究所、平成26年7月刊)から、先生の次の御発言を紹介し、皆さんと共有できれば幸いです。

〈祖国の危機に起ち上がり、命を投げ出した同胞に、天皇も首相も感謝の誠を捧げる必要も意味もないとしたら、歴史的に培ってきた日本人のモラルは崩壊します。(略)一国の指導者が、国難に殉じた人々に感謝と敬意の祈りを捧げなければならないことはどの国でも同じです。(略)

靖国問題はわが国の安全保障、国としての存立にかかわる問題なのです。(略)同時に、日本人の倫理観や道徳の問題にもつながると思っています。だからこそ、一時の経済的利益などと引き換えに、譲歩や妥協を探るような問題ではないのです。

かなりの年輩でも知る人は少なくなったと思いますが、「靖国神社の歌」というのがあります。

一、

日の本の光に映えて

尽忠の雄魂祀る

宮柱 太く燦たり

あゝ大君の ぬかづき給ふ

栄光の宮 靖国神社 

二、

日の御旗 断乎と守り

その命 国に捧げし

ますらをの 御魂鎮まる

あゝ国民(くにたみ)の 拝(おが)み称(たた)ふ

いさをしの宮 靖国神社

三、

報国の血潮に燃えて

散りませし大和乙女の

清らけき御霊安らふ

あゝ同胞(はらから)の感謝は薫る

桜さく宮 靖国神社

四、

幸(さき)御魂(みたま) 幸(さき)はへまして

千木(ちぎ)高く 輝くところ

皇国は永遠(とわ)に 厳たり

あゝ一億の 畏(かしこ)み祈る

国護る宮 靖国神社

昭和十五年に主婦之友社が主催して公募し、陸軍省・海軍省が選定、当選した細渕国造の詩に帝国軍楽隊隊員が曲を競作し、海軍軍楽隊隊員であった和真人の譜が選ばれました。

この歌の肝所は、一番の「日の本の光に映えて 尽忠の雄魂祀る 宮柱 太く燦たり あゝ大君の ぬかづき給ふ」です。

天皇陛下は普通の神社にはお参りしないのです。ご先祖を祀った八幡宮だとか、伊勢神宮だとか、あるいは昔から血縁のあった春日神社などにはお参りすることはあるでしょうが、普通の神社は天皇から位をもらうのです。だから天皇がお参りする必要はない。例外的にお参りされたのが靖国神社です。「ぬかづき給ふ」、これは本質をとらまえた歌詞です。

それから三番に「散りませし大和乙女の」とありますが、これは女性もまた国のために命を捧げた、その御霊に感謝することを「感謝に薫る 桜さく宮」と美しく歌っています。

「幸御魂 幸はへまして 千木高く 輝くところ 皇国は永遠に 厳たり あゝ一億の 畏み祈る 国護る宮 靖國神社」という四番は、今日的人権観からすれば非難の的でしょうが――いまの日本人は、靖国神社をお参りする人でもその多くが戦死して可哀そうだと思っているのではないでしょうか――、「幸御魂 幸はへまして」というのは、武士の伝統からすれば、戦場で斃れるというのは名誉なのです。その死は普通の死ではない、だからこそ「英霊」というのです。「はからずも犠牲になった英霊」というような言い方は本来あり得ないのです。死者への弔いでも、靖国神社は仏教における成仏とは違う、未来永劫の祀りを約しているのです。

それから、一番に「宮柱 太く燦たり」とあり、四番に「千木高く 輝くところ」とあります。私はここに「古事記」や「日本書紀」の神代とのつながりを感じます。(略)こうした表現は、皇室に関わりある神社にもあり、靖国神社が近代日本に創建されながらも、神代以来の伝統に基づく神社であるということを、この歌を作った人は知っていた、感じていたということなのです。

こういう感覚は、なかなか理屈では伝えられません。日本人の歴史や伝統そのもののために殉じる、「悠久の大義」に殉じるということで、(略)いずれにせよ、日本人が長い歴史のなかで培った情念や価値観、美意識がわからない人には、靖国神社の内奥を汲んでそれを守ろうという意志は生まれてこないのでしょう。〉

天皇陛下は昨年12月20日の宮内記者会との会見で、〈天皇としての旅を終えようとしている今、私はこれまで、象徴としての私の立場を受け入れ,私を支え続けてくれた多くの国民に衷心より感謝する〉と述べられました。

実は、天皇皇后両陛下は御成婚の2カ月半後(皇太子、皇太子妃として)、お二人そろって靖国神社に参拝されています。ここで、旅を終えられる前に是非とも…と願う国民がどれほどいるか。それを思うと、そのための静謐な環境をつくれていないことに、願うこと以上に忸怩たるものが込み上げてきます。

嗚呼、またもや取り留めない話になってしまいました。

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