この22日(土)に開催したシンポジウム「国難の突破口はどこにある」には、コロナ禍にも拘らず都内のみならず香川県、愛知県、静岡県など遠路お運びいただいた方々もいらっしゃいました。まことに有難うございます。ネットでのライブ配信を御覧くださった方々にも感謝申し上げます。

田村秀男、織田邦男、松浦光修のお三方の基調講演は、それぞれの専門分野から見た我が国の危機、その本質や歴史的背景などについて語っていただきました。

経済問題、防衛問題、皇統や歴史観の問題など、掘り下げてゆくと、現下の国難の淵源は「戦後体制(レジーム)」に行き着くというのがお三方の結論です。

田村さんの戦後日本経済の概説は、同時に日米関係史でした。ブレトンウッズ体制に組み込まれ、アングロサクソンによる金融資本主義の中で日本は経済復興を進めました。その過程で我が国は、米ドル覇権の下僕となっていき、その経済構造はドルを支えるようになった。日本のデフレ状態は米国にとって悪いことではない。

敗戦後、米国の初期対日占領方針は、日本を二度と米国の脅威たらしめないと云うことでした。日本を徹底的に弱体化し、事実上の属国にとどめる占領政策が考え出され、実施されました。それは冷戦の深刻化(共産主義の脅威の増大)や朝鮮戦争の勃発などを受けて米国自ら方針を変えたものの、日本人が自らを衰弱させ続ける内在化された仕組みとして、あたかも人体における不随意筋運動のように今日まで作用していると云わざるを得ません。

「平和主義」の憲法9条、「財政均衡主義」の財政法は、日本の国家としての主権を制限するという目的で一致しています。それは同時に日本人の独立心、気概を削ぐということでもあります。

「ライズ・アップ・ジャパン」本編でお話したことがあるかもしれませんが、東條英機内閣の大蔵大臣として無類の財政能力を発揮した賀屋興宣(かや・おきのり)は、敗戦後、米国によってかなり強引に戦争犯罪人に仕立てられました(東京裁判での判決は終身禁固)。交遊のあった石原慎太郎氏によれば、賀屋さんは自分がA級戦犯として訴追されたことをこう語ったそうです。

「まあ、文官の私をわざわざ戦犯に仕立てたというのは、私がやった財政への、相手がくれた勲章みたいなものですな。だって、日本みたいな貧乏な国がアメリカを相手に三年の余戦い続けられたのは、そりゃあ私の財政のお蔭ですよ。だから連中も私を憎んだんでしょうな」と。

そんな賀屋さんを石原さんはこう綴りました。

「自らの無類の財政手腕をかざして歴史に参加した人物の自負を私は美しいと思った。そして羨ましくもあった。」(『歴史の十字路に立って』PHP研究所)

この賀屋さんのような気概と能力が今日の財務官僚にあるか…。

国家戦略であるとか、経済政策であるとか、具体的に何を考えるにしても、詰まるところそれは心のあり方に帰着します。何を大切に思い、何を守りたいと思うか。歴史的に培ってきた日本人の常識や価値観とは何か。「グローバル化」に翻弄されてこの根本を見失っていることが、今日の我が国の危機の根底に横たわっていると思えてなりません。

我が国に経世済民を考える上での先人は少なくありません。シンポジウムでは触れませんでしたが、私は、たとえば素朴に二宮尊徳を尊敬しています。小田原藩に登用された尊徳は、我が国が開闢(かいびゃく)以来、外国から資本を借りて発展させたことはなく、「皇国は皇国の徳沢(とくたく)」で発展させてきたと気づきます。

そこで、「自分が神代の昔に豊葦原へ天から降り立ったと決心をし、皇国は皇国の恩恵で発展させてこそ、天照大神の足跡だと思い定め」(『夜話』)ると、「農」を通じて〝心田〟開発、すなわち立派な日本人をつくりあげようと懸命に努めました。

尊徳は「世間で困窮を救おうという者が、みだりに金銭や米穀を施すのは甚だよろしくない。なぜなら、人民を怠惰に導くからである。これは恵んで費(つい)える」ことで、指導者は人々を「奮発・努力をさせるようにすることが肝要」とも語っています。この故事は東日本大震災の復興の在り方や現代の社会福祉にも通じるでしょう。

付言すると、コロナ禍における飲食店の時短営業への協力金などは「施し」ではありません。営業したくともしてくれるなと求めるわけですから、働く意志と能力のある人たちに、それを押し止める代価は必要です。コロナが終息すれば、働ける環境が戻ってくれば、働いて納税する人たちです。これを見捨ててはならない。「人民を怠惰に導く」ことではなく、「奮発・努力をさせる」ために肝要なことです。ここで悪知恵の働く者の可能性を持ち出して全体を矯めてはなりません。

歴史を見れば、日本人はずっと勤勉、倹約、謙譲の精神で自立してきたと思います。尊徳の生涯はそのことを思い起こさせるものですが、かつては小中学校の敷地の一隅に当たり前のように建っていた尊徳の銅像は消える一方だそうです。日本人が大切と思い、守りたいと思ってきた価値観が軽んじられ、希薄化している。

勤勉と努力がいちばんの美徳である――それが和の精神や日本人の美意識、気概を育み、同時に「自立」を促してきました。「戦後レジーム」とは、まさに日本人からそうした心のあり方、「自立」を失わせるものだったのです。二宮尊徳であれ、西郷隆盛であれ、渋沢栄一であれ、ただ懐古する対象ではない。「国難の突破口」は、すでに先人の歩みの中にあると考えます。

またもや話が拡散してしまいました。

御寛恕ください。

*シンポジウムは、田村、織田、松浦のお三方への事前の質問を募っていましたが、実際の進行の中で触れることができませんでした。申し訳ありません。今後、改めてお三方との対談などを企画して参りますので、どうか宜しくお願い申し上げます。

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